http://orthomolecular.blog.so-net.ne.jp/2007-03-30-1

 

外房こどもクリニック院長:黒木 春郎 先生 に聞く

<臨床研究から、麻黄湯の有用性を確認>
 「麻黄湯にはオセルタミビル(Catsduke注:タミフルのこと)と同等の治療効果があります」と臨床研究の成果を説明されるのは、外房こどもクリニックの黒木春郎先生。2003年から05年にかけて、3回にわたり、小児インフルエンザ(38.0℃以上、発症48時間以内、インフルエンザ抗原迅速診断キット陽性)に対するオセルタミビル単独群(4mg/kg/day、分2、5日間)と麻黄湯(0.1-0.2g/kg、分3、3日間)の併用群を比較検討した。さらに06年に麻黄湯(同)の単独療法を検討する臨床研究を実施された。

 その背景・目的は、抗ウイルス薬が副作用や耐性ウイルスの出現などの課題を抱えている一方、漢方薬はインフルエンザの治療に歴史的な集積を有し、より有効な治療法の確立とその標準化を果たすことが可能と考えられたからだ。

 麻黄湯を選択した根拠は、「インフルエンザへの適応があり、小児によく使用されているからです」(黒木先生)。また、適応となる症状が、発汗傾向が見られない、頭痛、悪寒、関節痛、筋肉痛、四肢倦怠、咳嗽など、インフルエンザの初期症状に類似している点を挙げられている。

 04年1〜3月に小児科外来(齋藤病院)を受診した患児91人を対象に実施した併用療法の検討では、麻黄湯併用群のほうが解熱までの時間が短く、発熱遷延例が少ない傾向が見られた。
 臨床経過は全体としては両群間に有意差はみられなかったが、麻黄湯併用群でやや良好な傾向が見られた。活動性では麻黄湯併用群に良好な傾向がみられた。また、両群を通じて短期合併症、長期予後では特に問題となるものはなかった。さらに両群を通じて有害事象は認められなかった。

 05年2〜3月に小児科外来(同)を受診した患児107人を対象に実施した併用療法の検討では、麻黄湯併用群に解熱までの時間が短い傾向が認められた。臨床症状は全体として両群に有意差は認められなかった。食思、鼻汁、咳、睡眠に関して、麻黄湯併用群で良好な回復の傾向が示された。
 また、ウイルス分離について04〜05年にかけて、265エピソードで施行し、122例は治療開始時と開始後3〜4日目に採取。オセルタミビル単独群、麻黄湯併用群をワクチン接種、未接種群に分けて解析したところ、分離率に有意差は認められなかった。
 
<麻黄湯単独の有効性認める>
 06年3月には外房こどもクリニック外来を受診した患児29例(3ヵ月〜12歳)のうち、質問票を回収できた23例(ワクチン既接種8例)を対象に、麻黄湯単独による治療を考察された。その結果、22例が順調に経過した。1例はワクチン未接種で、発熱、気道症状が遷延した。

 黒木先生は「多くの例で麻黄湯は安全に使用でき、有効であることがわかりました。小児インフルエンザ治療のなかで、麻黄湯の位置づけが明確になったと言えるでしょう。投与量の目安としては、0〜5歳児2.5g/日分3、5〜10歳児5.0g/日分3が標準的です。水分摂取が低下して脱水の見られるような小児には慎重投与すべきですが、これまで特別な有害事象は経験していません」と語る。
 一連の研究から黒木先生は「麻黄湯は安全に投与可能で、オセタミビルとほぼ同様の効果を示したと言えます」と強調された。


図1 麻黄湯単独治療例 2006年 発熱の過程

図2 麻黄湯単独使用例 2006年 [結果:臨床経過]


【追記】
 「漢方医学」32巻2号に掲載された、福富 悌「インフルエンザ感染時の発熱に対する麻黄湯とオセルタミビルの比較」というケースレポートを紹介します(医療関係者は登録してダウンロードできます)。
[抄文]
 臨床上38℃以上の発熱を認め、迅速インフルエンザ診断キットでA型あるいはB型と診断された10歳未満の小児インフルエンザ症例に対し、オセルタミビルと麻黄湯の発熱に対する効果について比較検討した。
 オセルタミビル群(38例)と麻黄湯群(54例)ともに投与2日目以降は体温が有意に低下し、両群間に有意差は認めなかった。麻黄湯は飲みにくいとする意見があるものの、小児インフルエンザ感染の治療において、副作用もなく効果的であり,脳症予防の点からも小児においては有用な治療と考えられた。
 http://www.tsumura.co.jp/password/k_square/journal/kampoigaku/vol32_no2/05_case01.pdf

 この検討では,麻黄湯のインフルエンザによる発熱に対する効果はタミフルと同等でした。抗ウィルス効果の故ではなく、タミフルは中枢に作用して解熱するという機序であり、ウィルス疾患が治ったが故に体温のセットポイントを人体が下げるという免疫システム上の構造に乗っ取った麻黄湯での解熱とは全く似て非なるものであり、いずれが本質的に有効であり、医薬品として優れているかは論を俟たないでしょう。

 さらに麻黄湯の効果について著者らの経験では、インフルエンザによる全身倦怠感や頭痛や筋肉痛に対する効果は、オセルタミビルより有効でした67)。また、他の報告では、発熱についてはアマンタジンと同等であるとしたものや8)、24時間以内に麻黄湯を投与した場合、オセルタミビルと同等の解熱効果があった報告9)、A型インフルエンザにおいて、オセルタミビル単独群に比べ、麻黄湯単独群/併用群で発熱時間が有意に短縮されたなどの報告、オセルタミビル単独群とオセルタミビルと麻黄湯併用群との比較で、発熱時間に有意差がなかった報告や、オセルタミビルとの併用で西洋薬より麻黄湯を併用したほうが発熱時間は短く、経過も良好であった報告などがあります1011)。

6)福富 悌,名田匡利,青木雄介,他:麻黄湯のインフルエンザの合併症に対する効果の検討.漢方と免疫・アレルギー20:44-53,2006
7)福富 悌,岩越浩子,折居忠夫,他:インフルエンザの症状軽減に有効であった麻黄湯の使用経験.漢方医学29:228-230,2005
8)安部勝利:風邪症候群(夏風邪,インフルエンザ)に対して,西洋薬治療と比較した漢方.日本小児東洋医学会誌19:46-52,2003
9)窪 智宏:インフルエンザ感染症に対する,麻黄湯の効果-成人例での検討-.漢方と免疫・アレルギー20:54-61,2006
10)木元博史:インフルエンザに対するリン酸オセルタミビルと麻黄湯の併用効果比較-成人例での西洋薬併用との効果比較-.漢方医学29:166-169,2005
11)黒木春郎:インフルエンザと漢方. 漢方と免疫・アレルギー20:32-43,2006
12)福富 悌,深尾敏幸,金子英雄,他:10歳未満の小児インフルエンザ治療における麻黄湯の効果についての検討.漢方と免疫・アレルギー21:10-20,2007
 


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